こんにちは。電気エンジニアの早川です。
最近、電波を扱う案件を担当したこともあり、専門外ではありますが興味の対象がアンテナに向いています。そんなわけで、この記事を書いてみました。
八王子のテレビ受信事情
東京の場合、地上波デジタル放送の電波は基本的に東京スカイツリーから出ています。私が住んでいる八王子は東京スカイツリーからの距離が50km弱ということもあり、こんな感じの立派な八木式アンテナが一軒家やマンションに建っていることが多いです。
でもこういった大きなアンテナ、値段も高いし工事も大変です。
ここまで大きなアンテナが必ずしも必要か……といった疑問を以前から持っていたので、もっと簡単に受信できないかどうか試してみました。
室内アンテナではだめなのか
アナログ放送時代は、よほど強電界地域でない限り室内アンテナは使い物にならなかった印象があります。十分な信号強度が得られないためにノイズが目立ったり、室内では電波が複雑な経路を取るため時間差で同じ電波がアンテナに飛び込み、酷いゴーストが発生しがちでした。
地上波デジタル放送にはこういった環境にある程度耐えられるような仕組みが備わっています。八王子という決して強電界とは言えない地域でも、もしかしたら室内アンテナが使えるかもしれません。これなら工事不要です。
室内アンテナを自作してみる
地上波デジタル放送で使われているUHF帯は波長が比較的短いため、大きさの観点で言えば手軽にアンテナの自作を楽しむことが可能です。
変なアンテナ、”ヘンテナ”
次のような寸法で作られる、ヘンテナという名称で知られているアンテナがあります。
日本のアマチュア無線家が考案したもので、自作、調整が容易でゲインも比較的高いことが知られています。
今回はこのアンテナを地上波デジタル放送用に作成してみました。
ここで、λは波長を意味します。
アクリル板と銅箔テープで作成
自作アンテナは電線や銅の丸棒等で作ることが多いと思いますが、少しおしゃれにしたいのと、室内で使うため物がぶつかった時などに容易に曲がって特性が変化するのが嫌なのでアクリル板に銅箔テープを貼って作成してみました。
上記寸法通りに作ったところ、共振周波数が大幅にずれたので試行錯誤的に共振周波数を合わせ込み、結果的に次のような寸法になりました。中途半端な縦横比になっているのは計算ミスによるものです。
使用したアクリル板の厚みは3mmです。アクリル板の誘電率の影響でやや小さめのサイズになるようです。
ヘンテナは帯域幅が狭い
作成したヘンテナのSWR特性です。数値が1に近いほど良いアンテナである目安となります。受信アンテナとして実用になる目安としては3以下と言われています。
3以下の帯域幅は23MHz程度で、カバーできるチャンネル数としては4ch程度ということになりあまり実用的ではありません。
銅箔テープの幅で帯域幅が変わる?
私はアンテナの専門家ではないので理論的な裏付けは全くないのですが、銅箔テープの幅が帯域幅に関係しているようです。
試しに次のような幅で作成したところ、SWRが3以下の帯域幅は34MHzほどになりました。これでもまだ苦しいですが、多少マシでしょう。
受信実験
この広帯域化したヘンテナをBDレコーダーに接続して放送が受信できるかどうか試してみました。
結果、在京キー局に加えてTOKYO MXも問題なく受信できました。TOKYO MXに関しては送信出力が弱いことと、アンテナの帯域幅から考えてかなり厳しいかと思いましたが簡単に受信できてしまい拍子抜けです。
アンテナ出力のスペクトル
アンテナをスペアナに接続し、スペクトルを確認してみました。やはり、在京キー局に対してTOKYO MXは低めのレベルになっています。条件によっては受信できないかもしれません。
TOKYO MXスペシャルチューンアンテナを作る
実は自作室内アンテナでTOKYO MXを受信するというのがこの記事を書き始めたときの一つの目標でした。しかし、ほとんど工夫もなく受信できてしまい、それはそれで面白くありません。そこで、TOKYO MXに最適化したスペシャルチューンなアンテナを作ってみることにしました。
帯域幅の狭さを逆手に取る
帯域幅の狭いヘンテナの特徴を生かしてTOKYO MX専用に周波数特性を調整し、在京キー局に対する感度を敢えて落とすことで受信レベルの均一化を狙います。
プリアンプを搭載する
送信出力の弱い局を狙うわけですからプリアンプを入れたくなります。
回路図としては以下のような感じで、バランを経てアンプのICに接続しています。表面実装のICですが、裏返してUEWをはんだ付けすることで秋月電子で扱っているSMD用ユニバーサル基板に実装することができます。
参考文書
- https://www.infineon.com/dgdl/Infineon-BGA729N6-DS-v03_00-EN.pdf?fileId=5546d46254e133b401552f3e23ae69c3
- https://www.mouser.jp/datasheet/2/249/MABA_010245_CT1160-1290829.pdf
周波数特性はこのようになっており、TOKYO MX(Ch16)の中心周波数である491MHz付近にSWR最小値が来るよう調整してあります。
全体の写真はこんな感じです。1.5Vの電池で動かしています。養生テープはただの剥がし忘れです。
出力のスペクトル
アンプの出力をスペアナで観測すると、このようにTOKYO MXも在京キー局も十分なレベルで受信できていることがわかります。また、狙い通り在京キー局の受信レベルを落とすことができ、TOKYO MXを受信するという意味では受信機に優しいアンテナになりました。
ピンポイントで特性を合わせただけあって、TOKYO MXだけは教科書に出てきそうなくらいきれいなOFDMのスペクトルになっています。
受信実験
これだけきれいなスペクトルで受信できているので、当然BDレコーダーでも受信できます。
市販のテレビ用アンテナはすごい
ヘンテナは簡単に自作できますが、テレビ用アンテナとして使う場合は帯域幅の狭さに悩まされることもありそうです。Ch13~Ch63まですべてをカバーするには470MHz~770MHzというとてつもなく広い周波数範囲に対応しなくてはなりません。市販のテレビ用アンテのすごさがよくわかります。
結局、大きなアンテナは必要なのか
今回の実験の動機となった八王子のような地域で多素子の八木式アンテナが必要なのかという話題に戻りますと、自作の室内アンテナでも受信できてしまうくらいなのでもっと小さなアンテナで良いのではないかと思います。
室内アンテナで十分、と言ってしまうのは極端ですが、ベランダや壁面に設置するタイプの平面アンテナ等でも十分なのではないでしょうか。これなら安価かつ工事も簡単で風にも強いメリットがあります。
多素子の八木式アンテナは、もっと山奥の厳しい条件で活躍するかもしれませんね。
著者プロフィール
- Cerevo 電気エンジニア
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