ABLIC製ワイヤレス送電受電モジュールセットが秋月電子から発売!
2025/04/03に秋月電子から面白い商品が発売されました。小型の無線給電モジュールであり、特筆すべき点としては独自の方式により認証や電波法の制約を受けないということです。電子工作の愛好家にとって魅力的ですね。
https://akizukidenshi.com/catalog/g/g130395/
さっそく購入して試してみる
この商品は送電、受電に必要なモジュールとコイルがセットになっています。コイルを取り付ければ、すぐに試すことができます。
コイル取り付け時の注意
説明書にあるように、コイルの極性に注意する必要があります。配線の取り回しなどの都合で片側だけを逆極性にするとうまく動作しないので気をつけましょう。なお、送受両側を逆極性にする分には問題ありません。
簡単に動作確認
電源と電子負荷を使い、5V、50mAの負荷を駆動してみました。コイル間の距離は2mmとしました。

電子負荷の表示を見ると、きちんと無線給電できているようです。
ステータスLEDを取り付けてみるものの…
送電側のモジュールには給電状態を示すためのLEDを取り付ける端子が用意されています。ここにチップLEDを取り付けて動作確認してみました。
なんだか動作がおかしい…
このステータスLEDは給電状態の時のみ点灯します。つまり、受電モジュールが存在しなければ消灯するのが正しい動作です。

ところが、一度給電を開始したのち、受電モジュールを取り除いても消灯しません。これは期待した動作ではありません。
原因を考察する
説明書にある回路図とICのデータシートを比較してみます。すると、以下の点に相違があります。

9Vの電源に対するパスコンがモジュールには載っていません。このパスコンは、送電用LC共振回路のスイッチングに伴う電圧変動を平滑化する重要な役割を持っています。これがないことが不具合の原因として濃厚でしょう。
波形を観測する
回路図の★マークの点の波形を観測してみました。電源ラインですから、本来安定した波形であるべきです。

無負荷時

給電時

この波形では…
このICは今回観測した★部分の電圧と、スイッチノードの電圧を監視してFETのスイッチングタイミングを決める仕組みになっています。この部分が不安定だと、スイッチングタイミングが不正確になり、動作が不安定になってしまいます。
さらに、無負荷時には電圧が14V近くまで上昇しています。これは搭載されているレギュレータの動作範囲を超えています。さらに悪条件となれば、レギュレータも破壊に至る可能性があります。
さらに解析を進める
今度は無負荷時の送電側FETゲート波形を見てみました。とても不安定な挙動になっています。

このICの仕様として、無負荷時は一定周期でバースト動作をすることになっています。ところが、動作が安定しないためにバースト動作と連続動作を繰り返しているようです。これがステータスLEDが期待通りに消灯しない原因でしょう。
対策
データシートにあるとおりに10μFのコンデンサを追加します。なお、この商品には1μFの電解コンデンサが付属していますが、この問題に対する対症療法として付属していると考えられます。しかし、せっかくの小型モジュールなのに大きな電解コンデンサを取り付けてしまっては台無しです。

対策後の波形
無負荷時

給電時

無負荷時のゲート波形

大幅な改善がみられた
対策前とは全く違う安定した波形になりました。
ステータスLEDの挙動は…
この対策によって、ステータスLEDが期待通りの動作をするようになりました。

送電効率も改善
対策前後で効率を比較してみます。このように送電効率の改善も見られました。
入力電圧[V] | 入力電流[mA] | 入力電力[W] | 出力電圧[V] | 出力電流[mA] | 出力電力[W] | 効率[%] | |
対策前 | 9.002 | 58 | 0.522 | 5.047 | 52.000 | 0.262 | 50.262 |
対策後 | 9.002 | 51 | 0.459 | 5.050 | 52.000 | 0.263 | 57.202 |
まとめ
コイルやコンデンサの過渡現象を積極的に使う回路では、パスコンの配置に細心の注意が必要です。特に電源回路を設計するときには常に意識しましょう。
秋月のモジュール使用時には、改造は必須と考えられます。特に電源電圧が上昇する問題は、他の回路に損傷を与える可能性があります。
IC単体を入手した場合も、この点には特に注意して設計してください。
なお、この記事の内容は独自研究であり、ICメーカーや販売店の公式見解ではないという点に留意してください。
著者プロフィール

- Cerevo 電気エンジニア
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