第一級陸上無線技術士試験を受験した電気エンジニアの勉強法


はじめに

こんにちは。電気エンジニアの早川です。以前の記事にて、第一級陸上無線技術士(略: 一陸技)の取得を目指していることについて書きました。

今回は続編かつ完結編となります。
同資格を目指している方、興味を持たれている方への参考になれば幸いです。

前回までの試験進捗おさらい

第一級陸上無線技術士で必要な全4科目のうち、

  • 無線工学の基礎
  • 無線工学A

の二つが科目合格制度によって合格状態となりました。

次の2科目に合格すれば、晴れて資格の取得に至ります。

  • 無線工学B
  • 法規

現役電気エンジニアの第一級陸上無線技術士試験の受験、後半戦

敵の強さはどれほどか

前回までに合格済みの2科目については、いずれも学生時代の授業や社会人になってからの業務を通してある程度の基礎が備わった状態での挑戦でした。

一方、今回挑戦した2科目はいずれも専門外で、基礎から積み上げになります。正直、手を付けてみるまでは自信があまり持てませんでした。

それぞれの学習期間

5月の連休にも少し学習を進めましたが、本格スタートしたのは前回同様に試験一ヶ月前からとなりました。今回は休日8時間、平日1時間くらいの時間配分だったと思います。

無線工学B

2021/05/01~2021/05/05
2021/06/07~2021/07/04

法規

2021/07/05~2021/07/11

無線工学Bと法規の学習戦略

無線工学Bの学習ポイント

マクスウェル方程式

過去問をみるとだいたいどの年度にもマクスウェル方程式についての出題があります。これは押さえて当然の知識だと感じたため、この学習から始めました。後述しますが、結果として試験の合格には必ずしも必要ではない内容です。

特に多いのはマクスウェル方程式から波動方程式を導出する過程についての穴埋め問題です。電磁波工学についての基礎がない私にはまったくのちんぷんかんぷんだったため、入門書を購入して読み進めました。

こちらの書籍では基本となる4つの法則からスタートしてベクトル解析を用いた表現、波動方程式の導出までとても丁寧に解説されており、私にもなんとなくのイメージを掴むことができました。

数式や用語は物理学分野の流儀で書かれています。電磁波工学の分野だと数式の表現方法に若干の方言があり、次の書籍と合わせて読むことで実際に過去問にあるマクスウェル方程式の問題を解くことができました。

アンテナ理論

さきほどの書籍は試験で出題される範囲を深く本質的に理解する目的で書かれています。アンテナ理論についても、数式ベースで詳細に解説されています。

最初はこの本で最後まで学習つもりだったものの、1ヶ月で読み終えるには内容が重いなと感じました。この本で深い理解を目指すならもっと準備期間が必要でした。

そこで、さらに次の書籍を購入しました。

この書籍では、章ごとに必要な知識をダイジェストで挙げたあと、実際に問題を解きながら詳しく解説していくスタイルになっています。

知識を順番に取り入れていくよりは、まず目的ありきで必要な知識を調べていくスタイルの方が私にはあっているため、そういった意味でこの書籍はよくマッチしました。

本の趣旨として目的を試験の合格に絞っているところがあり、ところどころ解説が不十分に感じる部分がありました。そういった部分は前述の書籍を開いて理解を補っていくスタイルで学習を進めました。

電波伝搬、その他

アンテナ理論については以前から興味があり、食らいつくように本を読みました。しかし、電波伝搬などの話になってくると少し眠気を催してしまいました。まだ半分しか読んでいない状態でこれはまずいです。

そこでこの資格を取るのに欠かせない、分厚い過去問集の登場です。

一冊に10期分の過去問と解説が収録されています。実際に問題を解きながら、躓いたところについて参考書を開くスタイルに切り替えました。

最初は躓きまくりでほとんど問題が解けませんでしたが、4期目くらいまで進めると少しずつ自力で解ける問題が出てくるようになりました。10期目まで進めると、満点に近い点数が出るようになりました。

学習してわかったこと

マクスウェル方程式については…

過去問を何期もこなしていくと、マクスウェル方程式についての出題はワンパターンで、答えを覚えてしまいます。実は中身を理解していなくても解けるサービス問題だったようです。これから受験する人で、最小限の労力での合格を目指す場合はマクスウェル方程式の学習は不要でしょう。

学習目的で受験する場合は、もちろん真面目に学習する価値の大きいものです。また、「無線工学の基礎」をまだ未受験の場合、そちらの基礎知識にもつながります。

計算問題は反復練習

陸上無線技術士の試験は電卓の持ち込みができません。にもかかわらず、なかなかのボリュームの計算を強いられます。特に無線工学Bはその傾向が強く、桁数の多い四則演算、開平などを手計算で行わなくてはなりません。

私は計算がどちらかというと苦手で、中学生の頃の数学のテストはいつも時間切れで最後まで解くことができませんでした。また、計算ミスも多かったです。いまでもその苦手意識は変わっていません。

計算の速さと正確性を上げるには、反復練習しかありません。そこで、分厚い過去問集をもう一冊、古いものを使いました。合計20期分の過去問をこなすことで、計算能力の向上を目指したというわけです。

法規の学習ポイント

法規は本当に全くの素人で、法律の条文を読む習慣も能力もありません。こればかりは、ひたすら過去問をこなしてパターンを覚えるしかありませんでした。

過去問を解きながら躓いた部分について、こちらの書籍を読んで整理された情報を取り込みました。

このように進めていくと、最初にわかってくるのが特に頻出な類似問題があるということです。それらの問題は頻出であるがゆえ進めれば進めるほど自然に要点を覚えていきますし、本番でも出題される可能性も高いです。

もう一つ大切だと感じたのが、ひっかけのパターンを覚えることです。選択肢の中には正解が一つとそれ以外のひっかけがあるわけですが、よく読むと「それはこの条文とは関係ないだろ!」というのが実はわかりやすく入っていたりします。

結果的に法規は過去問集を二冊分=20期を2周しました。さらに、演習サイトも利用して合計26期分の過去問をこなし、試験直前にはほぼ満点が取れるようになっていました。

今回利用した演習サイトはムセンボーヤさんです。法規は問題を解く際に計算のための紙を使う必要がないため、こういった演習サイトを利用することでスマホ1つで学習を進めることができます。

学習を進めてみて感じた難易度

この資格に挑戦する前は無線工学Bが一番難しいのではないかと感じていましたが、全科目の学習、受験を終えてみると無線工学の基礎、無線工学A、無線工学Bの間にはさほど難易度に差がないように感じました。法規については数日間の短期勝負でなんとかなるため、最も難易度が低いかもしれません。

後半試験に挑むまでの当日の記録

7月9日、金曜日。試験の3日前です。この日から有給休暇を取得し、会場近くのホテルに宿泊しました。

荷物と路線がコミケに向かう人みたいですね。

とりあえず、飲みますか。

ホテルに到着した日は気分のリフレッシュのため、美味しいビールと食べ物を楽しむことに専念しました。前々日、前日は朝早めに学習をスタートし、夕方には切り上げてお店が閉まる前にビールを楽しみました。こういった楽しみこそ資格試験の醍醐味ではないでしょうか。

試験1日目

出発前

7月12日。法規の試験は午後からです。朝食後、追い込みで過去問を解きました。また、特に暗記が必要な電波形式の記号など、本番で吹っ飛ばないように最後の見直しをかけ、お昼ごろにゆっくり会場に向かいました。

本番

あとは淡々と指示に従って入室し、試験問題を解くのみです。法規の試験時間は2時間ありますが、問題を解くにあたって特に計算などを必要としないので、ゆっくり進めても30分程度で答案が仕上がります。

45分経過後、退出が自由になります。ほとんどの人がそのタイミングで退出します。私は1時間経過後くらいまで最後の見直しをしたあと、退出しました。

今回の試験問題はやや変化球で、単純な過去問丸暗記では対応できない問題がいくつかあったように思います。穴埋め問題の場合、過去問だといつも穴の位置が同じだったのが、別の位置になっているものなどがありました。

自己採点

合格点には達しているだろうという手応えはありましたが、ホテルに戻ってから参考書と照らし合わせて正答を確かめたところ、100点満点中99点となりました。

打ち上げ

この日から緊急事態宣言が発令されたため、ホテルの部屋でひっそりとビールを楽しみました。

試験2日目

出発前

2日目の午後から無線工学Bの試験です。法規の直前対策でエネルギーを使いすぎてしまったこともあり、やや調子の悪い朝を迎えました。

無線工学Bは直前にあがいたところでさほど点数に影響しない科目です。解ける問題が出たらミスしないように解く、それだけです。ですから、当日朝の勉強はあまり意味が無いのですが、安心材料のために初見の過去問をネットで探し、1期分解きました。結果125点満点中119点だったので、さほど心配することは無いだろうという安心感を得ました。

本番

豪雨に見舞われる中、なんとか雨脚の弱まったタイミングを見計らって会場に向かいました。

今回、20期以上の過去問をこなしても一回も見たことのない新問が1問出ました。少し悩みましたが、ラストの30分をこの問題を解くことに集中してなんとか時間内に答えを導くことができました。

新問が出たこと以外にも、若干の変化球を投げてきた問題が多く、過去問丸暗記でのアプローチを封じようという出題者の意図を感じました。

自己採点

電卓などを使って自己採点を行ったところ、125点満点中114点となりました。単純な計算ミスが1問と、過去問では定番だった問題が実は若干の変化球となっており、見事に引っかかってしまった問題が1問ありました。こういった点数の落とし方は悔しいですが、一応合格点には届いている見込みとなりました。

打ち上げ

ホテル近くのカルディで買ったおつまみとビールでひっそりと打ち上げです。

結果

8月7日に試験結果通知ハガキが届きました。

気になる結果は……

合格しました!

受験する上で習得しておきたい手計算

開平法

開平法、つまりルートを開く計算ですが、現代は義務教育で習わないということもあってか基本的には知らなくても解けるように数値が工夫されて出題されます。例えば次のような感じです。

言われてみれば納得ですが、552=138*4ということに気が付かないと大変焦ります。当日の緊張した状況ではこのような変形が思いつかないかもしれません。

開平法を知っていれば、まず138*552を計算し、直接その平方根を求めることができます。

このようにそれほど難しい方法ではないので、習得しておいて損はないです。何より、どのような数値であろうとアルゴリズムに従って淡々と処理すれば平方根が求まる安心感はとても大きいものです。こういった例の他、√5の数値をど忘れしてしまった!といった状況でも有効です。

開平法を習得する上で参考にしたサイトはこちらです。

真数からdBへの変換

一陸技の試験では、真数からdB(デシベル)への変換を必要とする問題が多く出題されます。代表的な数値については覚えてしまうと、組み合わせで色々な数値が求められるので便利です。

真数とdBの対応(2~20)

  • 2 → 3 dB
    基本なので覚える(常識)
  • 3 → 4.8 dB
    覚え方: ロボットさん(3)は死なない(4.771)
  • π → 5 dB
    一陸技ではよく使う。語呂合わせ: ぱいこー(排骨)
    あるいはπ^2 ≒ 10を覚えておくと導ける
  • 4 = 2 * 2 → 3 + 3 = 6 dB
  • 5 = 10 / 2 → 10 – 3 = 7 dB
  • 6 = 2 * 3 → 3 + 4.8 = 7.8 dB
  • 7 → 8.45 dB
    覚え方1: 7段のはしご(8.45) 覚え方2: 電卓を思い浮かべて7キーの位置からZを描く
  • 8 = 2^3 → 3 * 3 = 9 dB
  • 9 = 3 * 3 → 4.8 + 4.8 = 9.6 dB
  • 10 → 10 dB
  • 11 = 22/2 = 22/7 * 7 / 2 ≒ π * 7 / 2 → 5 + 8.45 – 3 = 10.45 dB
    π ≒ 22/7の近似を使う
  • 12 = 3 * 2 * 2 → 4.8 + 3 + 3 = 10.8 dB
  • 13 → 11.1 dB
    ゾロ目で覚えやすいので覚えておく
  • 14 = 2 * 7 → 3 + 8.45 = 11.5 dB
  • 15 = 3 * 5 → 4.8 + 7 = 11.8 dB
  • 16 = 2^4 → 4 * 3 = 12 dB
  • 17 → 12.3 dB
    連番で覚えやすいので覚えておく
  • 18 = 2 * 9 → 3 + 9.6 = 12.6 dB
  • 19 → 12.8 dB
    語呂合わせ: いちにっぱ
  • 20 = 2 * 10 → 3 + 10 = 13 dB

太字:暗記
※組み合わせで求めた数値は丸め誤差の蓄積があります

このように2から20まで列挙してみると、本当に暗記が必要な数値はそれほど多くないことが分かります。

応用

真数からdBへの変換がある程度自由にできると、楽に解ける問題が存在します。今回無線工学Bで出題された問題を例にとってみます。

問題文で必要な公式が与えられているサービス問題ですが、実際に数値を代入してみるとなかなか計算が面倒くさいです。正攻法で解くと次のようになります。

掛け算、割り算がとにかく面倒です。

一方、立式の時点で各数値をdBに変換することで、掛け算が足し算に、わり算が引き算になるため計算が簡単になります。

選択肢の数値が真数ではなくdBである場合、このアプローチを取ったほうが楽な場合が多いです。

資格の取得を通して得られた成果

読めなかった本が読めるように

私は良書だと思う技術書を見かけると、その時の能力では読めない内容であってもとりあえず買っておくようにしています。技術書はすぐに絶版になるからです。

そういった経緯で買ったまま読んでいなかったアンテナの本が何冊かありましたが、今まで全く何が書いてあるのかわからなかったものが多少は読み進められるようになりました。

試験勉強をしているとこれはあくまで試験のための勉強なのではないか、という気分になってきますが、そんなことはなく実用的な知識も身に付くということです。

淡々と進めることの大切さ

学習を始めた当初はとにかくやるぞ!と意気込んでいましたが、多少やる気を持ち上げたところでその時点の能力以上のことができるはずがありません。

ただ淡々と、練習問題をこなし、躓いたところを強化する。そこに過剰なやる気は必要ありません。必要以上に意気込むと疲れてしまいますし、試験後に燃え尽きてそれ以降も学習を続けるモチベーションがなくなってしまうでしょう。

このことに気がついたことが、今回の受験の最大の収穫だったかもしれません。漫然とした学習はもってのほかですが、平常通りの頭の回転数で臨むことが何より大切です。

おわりに

以前から一陸技という資格に漠然とした憧れを抱いていました。それは自分には到底手の届かない神の領域だと思っていたこともあり、実際に取得を目指すのがずいぶんと遅くなってしまいました。今考えるともったいないことです。

いつか取ろうではなく、思い立ったが吉日という勢いが何事においても大切でしょう。

最終的に受験のきっかけとなったのは、受託開発案件において無線システムの開発を行ったことでした。実際の課題に直面し、必要な知識を都度取り入れながら業務を遂行する機会は、エンジニアとして成長のチャンスでもありました。

その過程で生まれた知的好奇心を育てて今後も活かすため、一種のマイルストーンとして一陸技の取得というのを設定してみましたが、結果として得られたものは多く、また今後もこの分野を勉強していこうという強いモチベーションとなりました。

このように、実際の課題の解決や自主的な学習を通して社としても一エンジニアとしても成長していけるスタイルが、Cerevoという会社の良いところだと思います。

エンジニア積極採用中

現在Cerevoでは各種エンジニアの採用、またハードウェア共同開発・受託開発を絶賛募集しております。それぞれご関心お持ちいただける方は、以下の専用お問い合わせフォームよりご連絡お待ちしております。

Back To Top
© Cerevo Inc.