こんにちは、Cerevoの稲垣です。今回も割と低レイヤーな話です。
今どきのPCは、買ってくるとHDDが内蔵されていてOS (Windowsとか) がインストールされているのが普通です。組み込みの機器も、やはり工場でファームウェアをインストールされて出荷されます。例えばNOR型のフラッシュROMを使う場合、最初からファームウェアの書かれたチップをハンダ付けするそうです。対してNAND型のフラッシュROMだと、生ROMを載せておいて基板が完成してから書き込むことになります。これはNANDフラッシュには不良ブロックがあるので、各自で対策を講じつつ書き込まないといけないからです。ちょうどPCのインストールで使うようなインストールディスクを作って量産工場に渡しておかないといけません。つまり今回はブートローダとかインストーラとかそういう話です。
DM355のブート処理
CPUに電源が入ると、PCの場合はROMに入っているBIOSが最初に走りだすわけですが、私が今相手にしているTI (Texas Instruments) のDM355でもやはりROMに入っているBIOSのようなものが走ります。TIの用語ではこれをRBL (ROM BootLoader) と呼んでいます。なおRBLによってロードされるプログラムのことは、TIの用語でUBL (User BootLoader) と言います。RBLはCPUに直結したスイッチによって四通りの場所からUBLをロードすることができます:
- NANDフラッシュROM
- NORフラッシュROM
- SDメモリカード
- シリアルポート
したがってインストール“ディスク”はSDカードだったりします。もちろんシリアルポートにPCを繋げてインストールとかいう方法も使えなくはありませんが、遅いしPCが必要だし面倒なのでやらないと思います。
RBLはロード作業以外の、DDRメモリの初期化とかは (恐らくは) してくれません。この辺はややこしいこと満載なのですが、DM355のCPUコアはARMなので、TCM (Tightly Coupled Memory――密結合メモリ) とかAIM (ARM Internal Memory――ミサイルじゃないよ) とか呼ばれるメモリを *CPUに内蔵* することができるのです。キャッシュとは別物です。DM355の場合、TCM領域は64KiBあり、32KiBのRAMと、8KiBのROMと、24KiBの予約領域が配置されています。ともかく、RBLはCPU内のROMに書かれていて、CPU内のRAMにプログラムをロードしてくれるわけです。RBLではCPU内部のメモリしか使わないので、DDRメモリの初期化なんかは段階的にロードされたプログラムがやる必要があるわけですね。その後、ロードされたUBLは、DDRメモリを初期化してNANDフラッシュなりSDカードなりからU-BootなどのLinux用ブートローダを読み込むわけですが、この辺はフツーなので割愛します。
DM355の起動に関する仕様はだいたいこんな感じです。身も蓋もない言い方をすれば、インストールSDカードにはSDカード用のUBLを入れればいいのです。ところが、TIはSDカード用のUBLをリリースしていません。TIの掲示板を見ると……
https://community.ti.com/forums/p/1970/7286.aspx
さすがはTIだ。SDカード対応のU-Bootを先にリリースする予定とは……順序が逆なんじゃないのか。
有志のSDカード用UBLを試す
というわけで、TIよりも先にSDカード対応のUBL (勝手にSD-UBLと呼びます) を開発して、インストールディスクのデモを作った人がいます:
http://community.ti.com/forums/t/2299.aspx
U-BootとLinuxとramdiskイメージをロードして、単に起動したりNANDフラッシュに書き込んだりしてくれるようです (一応、ディスクイメージを見なくてもなんとなく分かるように記事を書いたつもりですが、気になる人はダウンロードして見てください)。これを適当に解析して改造すればインストールディスクが作れそうです。
とりあえずSDカードに書き込んで動かしてみると、シリアルコンソールにバナーとメニューが出ます。ブートとインストール、二つの機能があります:
SD Card DM35x boot loader by Constantine Shulyupin http://www.LinuxDriver.co.il/, sponsored by Applitec based on TI DM35x FlashAndBootUtils 1.10 SFT and SpectrumDigital evmdm355 v1 Compiled on Dec 18 2008 at 13:16:08 scd_nand_copy sd_init MMCSD_initCard 1 - boot; 2 - install; 3 - global flash erase and install
まずは単純にブートさせてみると……正常に起動しません。U-BootがLinuxを起動してすぐリセットがかかります。一方、インストール機能は正常に動作します。まずはデバッグが必要なようです。
つづく
次回の後編では、SD-UBLのバグを探して、バイナリを直接書き直し、実際にインストールディスクを作ります。
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