書類提出のみで工事設計認証を取得した話


工事設計認証とは

私たちが普段使う製品の中で電波を出す装置、いわゆる無線設備がとても身近な存在となりました。元来、電波を出すには一部の例外を除いて免許が必要です。なぜなら、電波は非常に貴重な資源であり有効に活用する必要があるからです。

工事設計認証という制度を利用し、いわゆる技適マークが付された製品は、その品質が日本の電波法で定められた技術基準を満たしていることが認証を受けた者(製造メーカーや輸入業者)により保証されることになります。そのため、一部の無線設備について免許を持っていなくても日本国内において使用することができます。

ややこしいので一言で書き直すと…

技適マークを付した者により、一部の無線設備においては免許の有無にかかわらずその製品を使用しても日本の電波法に違反しないことを保証してもらえる制度です。

※より正確には、あくまで必要な手続きの簡易化を目的とした制度であり技適マークの付いた全ての無線設備が免許なしで使えるわけではありません。

工事設計認証と技術基準適合証明の違い

巷でよく聞く「技適」とは、工事設計認証をさすことがほとんどです。 技術基準適合証明は、昔のアマチュア無線機などでよく見られました。製品が極小ロットの場合こちらの方が費用が抑えられることがあります。

  • 工事設計認証
    その製品の設計に対しての認証であり、同一製品には同一の認証番号が与えられる
  • 技術基準適合証明
    製品一つ一つに対しての認証であり、製品ごとにユニークな認証番号が与えられる

当社における工事設計認証の取得事例

Cerevoでは、創業間もないころから工事設計認証の取得事例が数多くあります。

自前で技適を取得し、中華の安価なBluetoothモジュールを使って製品を作る方法

工事設計認証を取得する際多くの場合は、 総務大臣の登録を受けた登録証明機関に

  • 必要書類
  • 認証を取得しようとする無線設備

を持ち込み、技術基準を満たすかどうかを調べる特性試験を依頼することになります。

上記の過去記事では、日本電波法認証ラボラトリーということろに依頼したとあります。

特性試験の内容

  • 空中線電力
  • 電波の質
  • その他

などを測定器により試験します。

恐怖の特性試験当日

世界的に流通しているモジュール、FCCなどを取得済みの製品など、あらかじめ結果が予想できる試験対象についてはあまり苦労することはないと思います。あるとすると、レジスタの設定ミスなどでNGが出る場合ですが、試験に立ち会っていればその場で修正できるでしょう。

無線部分が新規開発、かつ製品全体で認証を受ける場合、当日一発合格はなかなか難しいものです。事前に念入りな予備試験をしたうえで臨まなければならず、試験中は抜け漏れがないか不安で仕方ないでしょうし、万が一NGが出たら筐体を分解してなんらか対策を見つけなくてはなりません。すぐに解決できなければ、日を改めての再試験となり追加費用とスケジュール遅延が発生します。

自社で特性試験をすれば万事解決!

実は一定の条件を満たせば特性試験を自社で実施し、結果を書類で提出することも可能です。この場合、無線設備の提出は必要ありません。

自社で測定していれば、何か特性に問題があれば回路やファームにフィードバックし、落ち着いて修正することができます。

つまり、開発と特性試験を並行して行い、すべての技術基準を満たすことを確認したうえで、満を持してその結果を登録証明機関に提出すればよいことになります。

普通の会社で特性試験を行ってもよい者

電波法第二十四条の二の別表第一に掲げられた条件のいずれかに適合している必要があります。

別表第一(第二十四条の二関係)
一 第一級総合無線通信士、第二級総合無線通信士、第三級総合無線通信士、第一級海上無線通信士、第二級海上無線通信士、第四級海上無線通信士、航空無線通信士、第一級陸上無線技術士第二級陸上無線技術士、陸上特殊無線技士又は第一級アマチュア無線技士の資格を有すること。
二 外国の政府機関が発行する前号に掲げる資格に相当する資格を有する者であることの証明書を有すること。
三 学校教育法による大学、高等専門学校、高等学校又は中等教育学校において無線通信に関する科目を修めて卒業した者(当該科目を修めて同法による専門職大学の前期課程を修了した者を含む。)であつて、無線設備の機器の試験、調整又は保守の業務に二年以上従事した経験を有すること。
四 学校教育法による大学、高等専門学校、高等学校又は中等教育学校に相当する外国の学校において無線通信に関する科目を修めて卒業した者であつて、無線設備の機器の試験、調整又は保守の業務に二年以上従事した経験を有すること。

https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000131#Mpat_1

注: 陸上特殊無線技士は 第一級陸上特殊無線技士 に限る

私の場合は、太字で示した項目が適合していましたので、特性試験を行うことができます。

特性試験で使用する測定器

電波法第24条の2第4項第2号のイ~ニに該当する較正が行われた測定器を使用する必要があります。

イ 国立研究開発法人情報通信研究機構(以下「機構」という。)又は第百二条の十八第一項の指定較正機関が行う較正
ロ 計量法(平成四年法律第五十一号)第百三十五条又は第百四十四条の規定に基づく校正
ハ 外国において行う較正であつて、機構又は第百二条の十八第一項の指定較正機関が行う較正に相当するもの
ニ 別表第三の下欄に掲げる測定器その他の設備であつて、イからハまでのいずれかに掲げる較正等を受けたものを用いて行う較正等

https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000131#Mp-Ch_2-Se_1-At_24_2

多くの場合ニに該当するでしょう。一般的なレンタル業者から借りた場合、やはりニに該当したものが届きます。レンタルの場合、較正証明書も発行してもらいトレーサビリティチャートを確認すると安心です。

測定器の較正で困ったときは

測定器はあるけれど較正期限が切れている場合などはよくあるでしょう。このような場合への対処として、開発中は社内の較正されていない測定器を使い十分マージンがあることを確認した後、最終測定で較正された測定器を一週間など超短期でレンタルして使用するという方法があります。

特性試験の方法

今回、登録証明機関としてテレコムエンジニアリングセンター(TELEC) を選択しました。TELECでは、以下の2通りの試験方法を選ぶことができます。

  • 総務大臣が指定する試験方法
  • TELEC試験方法

上記2つの内容に大きな違いはありませんが、TELEC試験方法の方が注釈が丁寧であったり、解釈の難しい部分についてしっかり説明されています。特段の理由がない限りTELEC試験方法を選ぶと良いでしょう。試験方法は冊子としてTELECから販売されていますので、これを購入して参照します。

試験方法の読み方

試験方法の冊子で使われている用語は基本的に法令用語となります。ですから、ある程度電波法規の知識が必要になります。文章構成も法律文書よりの書き方になっていますから、何度も読み直して慣れる必要があります。注釈も多くありますので、一字一句読み飛ばしてはいけません。

特にスペアナの設定についてはかなり多くの項目が指定されています。一項目でも間違ってしまえば結果は意味のないものになります。

特段の取り決めがない数値や接続については、自己責任にて合理的な判断を行います。なお、質問があった場合その合理性を証明できる必要があります。

最終的に使用するのは「結果の表示」の項目に書かれている数値ですが、途中経過の数値や波形の提出を別途求められる場合があります。

アンテナ特性の測定

試験方法として、アンテナを分離して電気端で測定する方法とアンテナ一体型として装置全体を測定する方法がありますが、後者は非常に手間がかかるため前者が推奨されています。この場合、アンテナ特性の提出が必要です。

既製品のアンテナを使用する場合、アンテナメーカーが公開しているデータシートの提出で済む場合がほとんどです。

アンテナを自作している場合、その諸特性を実測する必要があります。

使用する周波数にもよりますが、315MHz帯の機器の場合30MHz~3GHzの絶対利得が必要とされています。※個々の場合により緩和されることがあります。

測定範囲が非常に広く、30MHzといった普通のアンテナ測定設備では測定しにくい帯域が含まれています。

低い帯域については、EMCサイトを利用して測定を行いました。ただし通常のEMCサイトの利用方法からかなり逸脱していますので、事前に入念な打ち合わせの上で特別に許可を得て測定ソフトの特殊な使い方や、測定系の接続変更、レシーバーの設定変更などをサイトのスタッフさん立会いの下で行いました。

EMCサイトでの測定結果からアンテナの絶対利得への換算は複雑ですのでここでは割愛します。

高い周波数帯域については、一般的な3次元アンテナ測定システムを利用しました。

特性試験に必要なスキルレベル

少なくとも第一級陸上無線技術士レベルの知識が無いとスムーズに進まないと思います。特に、法規については満点合格できるくらいの知識が無いと思わぬ勘違いを生じます。そしてこれらの知識が無いと登録証明機関の担当者さんと話がかみ合わないでしょうし、EMCサイトに特殊な利用方法について交渉することもできないと思います。

他には、スペアナの操作に熟練していないと、法令用語とスペアナの表示との対応がわかりません。

試験方法で明示されていない部分については状況に合わせて合理的に考える力が必要です。

総務省への追加報告資料について

無線設備の提出なしで申し込みを行う場合、総務省向けの追加資料が必要になります。

具体的な内容としては一部の結果をより詳細に示した表や、スペアナのスクリーンショットなどです。

なお、この資料は公示されますので他社の例を参考にするとよいでしょう。
当社で取得した番号として
001-A21554
があります。
https://www.tele.soumu.go.jp/j/giteki/navi/index.htm
こちらで検索してみてください。

そして申し込みへ

ここから先は、最初に挙げた当社の過去事例と同じ流れとなります。必要書類を揃えてメールで送付し、押印が必要な書類については別途押印のうえスキャンしたものを送り、原本はこちらで保管します。

最終的に書類としては50ページ程度のボリュームになりました。

おわりに

当社では、無線を搭載した製品の開発も行っており、この記事のように認証に関わる業務も得意としています。受託開発等、お気軽にご相談ください。

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